西吉野は林業の盛んな土地で、山頂まで年中緑に覆われる山が多い。どちらかといえば、この山域は人々の暮らしと信仰に深く関係し、山上まで民家や社寺が点在している。吉野川に近い「吉野三山」(栃原岳・銀峯山・櫃ヶ岳)は大峰主稜と距離があり、標高も低いので眺望にはあまり恵まれない。ならば、天ノ川に近い山稜はどうだろうか。 天川村と五條市の境界(一部は黒滝村)には、笠木峠から天辻峠に至る分水嶺が横たわり、現在ではトレイルコースとして弘法大師の道が開かれている。これまでに登ってない山を含め、南から白石山・武士ヶ峯・高城山・天狗倉山・黒尾山を繋ごうと出かけた。 先日の天和山・滝山で籠山(こもりやま)の下見を終えており、天川西谷口近くの「弘法大師霊跡仏棚へ」の標識からすぐに取り付く。時間が厳しいので、仏棚を訪ねることは叶わないが、所在地は白井谷右岸にある944m標高点の東面(780m付近)にあることがわかった。 上籠山最奥の廃屋から、標高差150メートルの植林地を直登で稼ぐと明瞭な尾根道に出た。途中にある868.1mの四等三角点を確認し、ほぼ地形図どおりの道で白石山の尾根に達する。 頂上の三等三角点を往復し、武士ヶ峯に向けて林道を進む。やがて山道に変わって武士ヶ峯南峰に着いた。北に位置する本峰より高い。葉を落とした林を通して、天辻峠への稜線が見える。武士ヶ峯の北側鞍部では林道が稜線を越える。東側へ下れば西ノ谷を経て出発地点に帰ることも可能だ。回り込んだ先から尾根に戻ったが、直下の東面にも林道が敷設してある。倒木帯では、その道路を利用する。 二等三角点の高城(たかぎ)山は展望が得られず、そのまま緑一色の鷹ノ巣山・天狗倉山に向かう。天狗倉山も植林で暗く、1,000メートル級の前衛峰もやはり眺めがよくないのかと諦めかけたとき、木々の間から北東面が開けた。左から大天井ヶ岳・観音峯・稲村ヶ岳などが姿を現す。場所を移動すると、弥山・八経ヶ岳も望めるようになった。 急坂を降った先は捻草(ねじもち)峠。少し登り返すと大峰北部から中部のパノラマが目に飛び込んできた。見事な山々の連なりに、思わず叫ぶ。前衛の山々で、展望台としてこれほどの場所はちょっとないのではないか。 時間が気になるので、カヤが目立つ尾根の小さなアップダウンを繰り返して、黒尾山の三等三角点に到達した。帰途のバスまであと1時間30分。4キロメートルの林道歩きを含めても、余裕を持って歩けそうだ。目標とする林道終点まで、南東側の支尾根をはずさないよう慎重に進む。標高差250メートルの杣道を降ると15分で橋が見えた。五色谷林道の路面に散り敷かれた落葉が心地よく、乾いた靴音を立てながら沢原(さわばら)へ下山する。休憩を入れて実働5時間40分。大満足の一日になった(2022.11.27)。 |