川湯温泉で一泊するため、翌日は中辺路の未踏区間を繋ごうと考えていた。前回は湯峯温泉から三越(みこし)峠を越えて熊瀬川(四村川上流)の道湯川橋まで歩いており、ここを起点に熊瀬川王子から近露王子まで行く予定である。前回と今回で、中辺路の見どころが完結するため楽しみだ(→大日越と赤木越)。 道路の分岐に石があり、地名が彫られているようだが判然としない。現在、迂回路になっている岩神(岩上)峠からの道と合流し、少し先から草鞋(わらじ)峠の石畳(女坂)を進む。ここは「蛭降(ひるふり)峠百八丁」(『熊野巡覧記』)と呼ばれ、巡礼者がヒルに苦しめられる難所だった。 一里塚跡から熊瀬川王子を経て小広(こびろ)峠(小広王子)を越えると車道を進むようになる。中ノ河(中川)王子に立ち寄り、安倍晴明腰掛岩を過ぎると秀衡(ひでひら)桜がある。野中は宿駅(宿場)で、現存する茶屋が面影を伝える。下部には清水が湧き、伝馬所が置かれていた。継桜(つぎざくら)王子社の周囲には「一方杉」と称す大スギが何本もあり、どれも熊野方面に枝を伸ばしている。 比曽原王子から大畑の集落に入ると南面が開け、野中川を挟んだ山なみが美しい。南西方向の遠くには、「乙女の寝顔」と形容される半作嶺(はんさみね)が横顔のように起伏を繰り返す。 楠山坂を降りきると近露(ちかつゆ)の盆地で、近野神社の石段を左に見ながら近露王子へ向かう。途中の斜面ではリンドウが群生していた。南北朝時代に、大塔宮護良(おおとうのみやもりなが)親王が熊野へ落ちのびる際に尽力した野長瀬一族の墓が近くにある。古道横の枝垂桜は六郎可盛(よしもり=第十九代)の手になる古木で印象的だ(2021.11.14)。 |