若丹国境尾根の頭巾(とうきん・ときん)山から長老ヶ岳へつづく稜線に天狗畑(てんぐばた)や地蔵杉があり、鶴ヶ岡(南丹市)と奥上林(おくかんばやし=綾部市)をつなぐ洞(ほら)峠が地域の往来を支えてきた。 先月に、近くの大栗峠・中津灰をトレースしたので、北側の峠と山を訪ねようと大町から出発する。睦寄(むつより)町から『近畿自然歩道』の道路を歩いて草壁川を遡り、古屋(こや)の集落を抜けて洞峠の登り口に達する。 倒壊した石仏の御堂から白石(しらいし)原に向かうと、葉を落とした雰囲気のよい谷が行く手に延びる。この付近はトチノキが群生し、救荒時の食糧を確保するため大切に守られてきたらしい。幹周が5mを超えるものもあった。谷の湧水は「モーモー」と呼ばれ、ことわりの言葉をかけて飲まないとお腹を壊すと伝わる(古屋)。 上部は明るい樹林に変わって、支尾根の急登をがんばると稜線に出た。少し進めばこの一帯の樹林では最大とされるブナの巨樹がそびえる。傍のベンチに座って昼食の休憩をとった。 東から北へ方向が変わるピークは要注意だが、その後は方向が変わるピークと尾根の分岐には道標が設置されていた。『綾部トレイル』の一環で整備されたものだろう。ただ、材質やメンテナンスが悪くいつまで役目を果たせるかは心許ない(既に多くのプレートが損傷)。 急登をこなすと、標高780m付近で右から作業林道が合流した。そのままトラバース気味に登ると、天狗畑の山頂を過ぎた東側で稜線に乗る。若丹国境の山々や遠く比良山系が望め、折り返して北側斜面にその道はつづく。 山頂では西側を中心に眺めがよく、大江山の山なみや丹後半島を見ることができた。北側には、わずかながら若狭湾が海面を覗かせる。 下山は尾根伝いに休憩地点の大ブナまで戻り、洞峠の鞍部へ降りる。この峠は京街道のひとつで、京都と舞鶴を結ぶ最短ルートであった。古道には今も石仏などが残る。 当初は峠道で古屋へ下山し、上市場(睦寄町)からバスに乗ろうと考えていた。和知(京丹波町)に住む友人に連絡すると、仏主(ほどす)まで迎えに来てくれるという。そこで、稜線にある723m標高点の南側ピークから、南西に向かって和知本谷の林道を下ることにした。 地形図を見ると、植林地(針葉樹の記号)と広葉樹の記号が斑模様になっている。境目を上手に利用すれば、比較的たやすく林道へ下りられるだろう。読みが的中して、集落まで1時間ほどで達した。これまで気づかなかったが、『近畿自然歩道』のトイレが建つ広場には「延宝義民顕彰碑」があった。迎えが来るまで、江戸時代の丹波の暮らしを偲んでひとときを過ごす。 下の写真は、「山家(やまが)」駅に近い由良川本流の立岩である。多数の甌穴が見られる景勝地で、バスの待ち時間を利用して往復した。駅から片道が約1.1キロメートルあるものの、道は整備され道標も完備している(2025.11.30)。 |