周辺を3,000m峰に囲まれた焼岳は、低いながらも特徴ある火山だ。1915(大正4)年の噴火(大正池火口)で梓川を堰き止め、大正池を造ったことで知られる(同年6月6日形成)。上高地を象徴する山岳として、北アルプスの中ではユニークな存在である。現在も噴煙や噴気があちこちで見られ、今春から火山性地震や地殻変動が激しくなって、一時は登山できるかどうか気を揉む日がつづいた。幸い7月から落ち着いたので予定どおり出かける。 入山は、上高地帝国ホテルから田代橋を渡って峠沢左岸を登り、新中尾峠下部の岩場はハシゴで乗り越す。途端に樹林帯から亜高山帯・高山帯の風景に変わり気分が高まる。これから登る北峰が近くにあり、泥流が流れ下った荒々しい光景が広がっていた。中尾峠にあった焼岳小屋は、1962(昭和37)年の水蒸気爆発で廃絶し新中尾峠に再建された。 旧峠との間に展望台があり、穂高連峰や霞沢岳の山稜が近い。残念ながら高峰群は雲がまとわりついている。付近に噴気孔があり、熱を持つ地面や露岩と臭気が活火山を表す。東側へ回り込みながら北峰の頂上に達した。 最高峰は南峰だが、立入禁止区域なので北峰との鞍部から下堀(しもほり)沢の源頭を降る。火山らしいガラガラの斜面をゆっくり進み、2,270m付近に設置された火山観測の露岩を過ぎると平坦地になった。やがて緩やかな尾根に入り、針葉樹から広葉樹の林へ道がつづく。急峻になると、ほどなく安房(あぼう)峠の国道に出た。歩道で中ノ湯温泉に戻る。乗鞍火山帯に属する焼岳は、噴火の歴史や造形美に加え眺望のよさなど幅広い要素で成り立つ名山であった。 旅館のロビーでは、穂高連峰と霞沢岳の山体が眺められ、ここで過ごすひとときもすばらしい。何度も腰を下ろして風光の変化を楽しんだ。今回は訪ねることができなかったが、梓川沿いに卜伝(ぼくでん)の湯(硫化水素泉)があるので、機会があれば訪ねてみたい(2024.8.4)。 |