初夏の湿地や草原を彩るニッコウキスゲ(ゼンテイカ)は好きな花のひとつ。中部地方以北では大規模な群生地が各所にある。ところが、近畿地方では限られた場所でしか見られず、その分布域に関心を持ってきた。居住する滋賀県では、有名な伊吹山を中心とする江濃国境稜線と朽木の数ヶ所〔『朽木の植物(下)』〕がこれまでに記録されているだけだ。 季節の花を探索している草川啓三さんから、若い頃に見つけた白倉山の自生地を教えてほしいと連絡があり、当時の記録を引っ張り出した。上の写真がその様子で、岩場の基部で広範囲にわたって美しい橙色の花を咲かせていた。高校山岳部の先輩(久保善和氏=京都府立植物園勤務)に同定してもらい、京都大学芦生演習林(当時)とともに西限(南限)ということが判った。その後、京都府立大学久多演習林でも見つかり、由良川・安曇川源流域は特筆すべきエリアになっている。 近年では、県内の他の場所でも生息していることがわかってきて興味深い。草川さんによると、百里ヶ岳(湖西)と御池岳(鈴鹿)で確認できたという(下の写真)。 「山城三十山」で使っていた白倉山は、『近江 朽木の山』(1992年)の刊行後は白倉岳として流布し、現在はトレイルコースが整備されている。本来は山頂直下の「シラクラ」を示していると思われる(「クロクラ」もある)。 |