「秩父三山」の一峰である両神(りょうかみ)山(あとの二座は武甲山・三峰山)は、ギザギザの頂稜が特徴の山だ。翌日から『山旅倶楽部』で荒船山と妙義山へ登る予定なので、気になっていた山へ前日に出かけた。時間があれば八丁峠からの尾根を行きたかったが、佐久平への移動が必要なため日向大谷(ひなたおおや)からの表参道往復にとどめる。 出発地点の「三峰口」駅からは武甲山が間近に望まれた。「日本三体薬師」に数えられる法養(ほうよう)寺薬師堂近くで宿泊。隣は四阿屋(あずまや)山に祀られる両神神社(丹生明神)で、ここは里宮にあたる。翌朝は、登山口の「日向大谷口」バス停まで朝一番のバスに乗車した。行程を考えると午後3時には降りてこなくてはならず、距離=10キロメートル超、標高差=1,400m以上のコースはなかなか大変である。 日向大谷から登り始めるとすぐに鳥居が現れ、祠には観蔵行者坐像があった。両神修験を開いた行者で、観蔵院(当山派)と金剛院(本山派)の活動は現在もつづく。会所(かいしょ)までは左岸上部をトラバースする。上流は薄(すすき)川を渡り返しながら遡行するが、急斜面をジグザグに折り返す区間もある。 山名は、伊弉諾(いざなぎ)尊・伊弉冉(いざなみ)尊の二尊を祀る説や、日本武(やまとたける)尊による八日見山からとされる。また、龍神(りゅうかみ)山の転訛ともいわれる。いずれにせよ、秩父地方における神の山としての歴史があり、そのためルート上には多くの痕跡が残る。ガスに覆われていたせいか、清滝小屋や鈴ヶ坂辺りは独特の宗教的雰囲気に包まれていた。 傾斜がなくなると両神神社(本社)の鳥居が建ち、つづいて両神御嶽神社の社殿が建つ。どちらも、狛犬はオオカミ(山犬)である。岩場のアップダウンを繰り返し、白井差(しらいざす)からの尾根が合流すると二等三角点(点名=両神山)のある頂上に着いた。雲の中なので眺望はまったく得られず残念だ。幻想的な光景と春の花を楽しみながら下山する(2024.4.18)。 |