京都の大原と大津の伊香立(いかだち)の間には、二つの峠道が通じる。古知平・小出石と北在地・上在地を繋ぐルートだが、目的や行先によって使い分けられたと思われる。「京都再発見」のトレッキングで、十数年ぶりに峠道を歩いてきた。 小出石を出発して、旧敦賀街道を峠の入口に向かう。すぐ北側に八幡神社(「はちまんさん」)があり、境内を掃除する人の姿も見えた。大切にされていることが伝わってきて、周囲の広葉樹林も雰囲気がよい。鳥居の先にはアスナロの巨樹があり、傍に大きなスギも立っている。谷沿いに進むと伐採後の植林地になって、カバーをかけられたスギの苗木が現代美術の作品のような光景を呈す。林道で伊香立越の峠近くに登り、広い尾根を西側へ迂回して鞍部へ降りた。 昼食後に稜線を小出石越まで進むと、掘り込まれた古い道と出合う。時間があるので、531m標高点を越えて魚ノ子山(点名=小出石)を往復した。山名は伊香立北在地の字名である。稜線は『比良比叡トレイル』のコースだけによく踏まれている。 小出石越は八幡越とも称し、八幡神社へ参拝するルートだったのだろうか。この呼称は小出石側のものとされ、伊香立側にある八幡へ向かうものと考えられる。ただ、現行地名で特定するのは困難である。 上部は見事な道がつづいていたが、下部は伐採地で不明瞭になり、作業道を使って真野川左岸の林道に降り立つ。ちょうど「ハチマン」の標識がある地点だった。北在地の高台にある慈眼寺(高観音/慈眼庵=大津市文化財)に寄り、下在地まで風景を楽しみながら歩く。大津京遷都に伴って平群飛鳥真人(へぐりあすかのまひと)が造営したとされる八所神社。その杜がだんだん近づいてきた(2024.3.19)。 |