三重県大紀(たいき)町は志摩半島の南側の付け根にあたるようなところで、熊野灘のリアス式海岸が美しい景観を見せる。姫越(ひめご)山は南部の海辺に屹立し、源平の落人悲話でも知られる。太平洋側なので冬の日だまりハイキングにふさわしい。登山口の錦はかつて紀伊国に属し、錦峠の北側は伊勢領であった。国境の西方には熊野古道「伊勢路」が越えるツヅラト峠と荷坂峠がある。 「伊勢柏崎」駅から錦漁港へ移動し、「姫塚山道」の登り口から階段を登る。上部に避難所が設けられ、標高の表示もあちこちにある。集落の背後はウバメガシが主体の樹林で、なかなか雰囲気がよい。大きなヤマモモも目に入る。すぐに「妙姫大明神」「甚六明神」があって、尾根の急坂がつづく。標高200mを超えると平坦になって展望台へ着いた。南西側は海岸線が曲折し、尾鷲の八鬼山から高峰山のスカイラインを望むことができる。馬越(まごせ)峠の東側にある天狗倉(てんぐら)山も見えた。459m標高点(前姫越)の西面に爺塚があり、北側の稜線に姫塚を見いだす。途中の左手(西面)はヒノキの植林地がけっこう広がっていた。林床はウラジロをはじめシダ類が繁茂する。 カシ類の大木が現れると姫越山の山頂に着いた。芦浜池と海岸が近い。ここで昼食の時間にする。前姫越の分岐まで戻り、芦浜峠へつづく急な尾根を足もとに注意しながら降る。途中で中部電力の三角点が目に入った。峠から海跡湖の芦浜池を往復する。美しい砂浜だが、以前はここに原子力発電所の建設計画があった。そのため、電力会社の社有地になっている。かつては人の暮らしがあったという。 峠からは、標識にしたがって黒島展望台の分岐まで照葉樹林の山腹をトラバースする。小谷を横断する地点では、土砂が押し出していて慎重に足を踏み出す。時間的に厳しいので、残念ながら展望台へ向かう近畿自然歩道を諦めて浅間神社へ向かった。境内には巨樹が繁り、避難所のある広場からは夕日に照らされた静かな錦湾を見下ろす。風は冷たかったものの、温暖な地方らしく日射しは柔らかだった。漁師町を歩いて登り口に戻る(2024.1.12)。 |