愛宕山を源頭にもつ芦見谷は、裏愛宕で最大の集水域と最長を誇る。最高峰の地蔵山と竜ヶ岳の間からは、旧愛宕スキー場跡より滝谷が流れ出す。谷筋には海底火山の痕跡があるので、ウロコ模様の枕状溶岩を見たいと思っていた。 丹波側の中腹に棚田や蕎麦畑が広がる越畑(旧嵯峨村)の集落。そこには、芦見谷から水を引く歴史が隠されている。明治4(1871)年に3キロメートル以上の用水路を村人総出で開削した。明治38(1905)年には、旧細野村(右京区京北)から給水権を得て「上大谷山」にトンネルが貫通する。明治時代の灌漑用水路跡は今も残り、一部は地形図に歩道として描かれる。現在は、芦見谷の標高500m付近から越畑隧道で水を引いており、それらの施設も立ち寄りたい。 この日の亀岡盆地は深い霧に覆われていたが、神吉(かみよし)まで来ると青空に木々の黄や赤色の葉が輝いている。越畑から芦見峠への道を登り、家屋が途切れると用水路が目に入った。上部の小さな谷には、トンネル(越畑隧道)から出た水を分けるゲートやパイプが設置されている。また、旧用水路と思われる山腹をトラバースする道も確認できる。峠から芦見谷側の作業道を進むと、トンネルの入口があった。本流には堰が築かれ、取水口から水がトンネルに吸い込まれる。 少し上流までウロコ模様の岩石を探して遡るが、倒木や土砂に覆われ特徴的な景観は見られない。側壁に泡のような白い斑点が見られる岩石もあるが、みなさんに理解してもらえるような場景ではなかった。仕方なく下流へ向かうと手入れの施された植林地がつづき、上部に自然林が広がっているエリアもある。 中流の川床が見られる地点で覗き込むと、なんと美しいウロコ模様があるではないか。期待していた光景で、黒い岩石(泥質基質)が引き伸ばされたような形状の間に白い筋(石灰角礫)が走っている。これは、海底に流れ出た溶岩が海水によって急激に冷やされることでできるらしい。その美しい光景に、しばし釘付けとなった。 日当たりのよい空間で昼食の休憩。午後は紅葉やススキの穂を目にしながら下流に進み、芦見谷口橋で細野川と合流する。林業が盛んな細野の集落を、『京都一周トレイル』(京北コース)で国道(周山街道)が通るバス停まで歩いた(2023.11.21)。 |