念願の中八人(なかはちにん)山へ行ってきた。大峰山脈の証誠無漏(しょうじょうむろ)岳から西に張り出す支脈の主峰である。稜線の北側は十津川(熊野川)の支流=滝川流域で、南側は芦廼瀬(あしのせ)川が西へ流れ出す。川沿いの林道を遡って取り付くのが一般的だが、大峰主脈とぜひ繋ぎたかったので東側の下北山村から入山した。 北山川支流の池郷(いけごう)川は、困難なゴルジュで知られる名渓だ。十津川水系の二つの渓流も大峰を代表する河川。なかでも、白谷林道(現在の国道425号)ができる前の芦廼瀬川は、溯行が困難な幽谷として訪れる人は限られていた。コースはこれらの流域に跨がる。 池原の集落から池郷川右岸の林道(小又池之郷線)で上流をめざす。すぐに小又谷を大きく回り込むが、橋の下流には見事な滝が懸かっていた。さっそく、大峰らしい造形と構成に迎えられ気持ちが弾む。中流の狭まった区間の対岸に石ヤ塔があり、進むにつれて徐々に全貌を現す。大又谷右岸の支谷を回りながら持経(じきょうの)宿で主脈に達した。時間に余裕があるので、阿須迦利(あすかり)岳から証誠無漏岳まで足を延ばす。 前日の前線通過後は、弱い冬型の気圧配置になる予報だったので、尾根から南斜面に下った場所でツエルトを張った。早めに夕食を終えて横になったが、この頃から北西風が強まりゴウゴウと音を立てて吹き抜ける。ときにはジェット機の轟音に似た金属音まで聞こえる。ツエルトの生地がはためく音もうるさい。ただし雲は少なく、月齢13〜14に照らされた山々のシルエットが晴天の夜空に浮かび上がる。影を落とす樹影の動きに目が冴え、まんじりとせず一夜を過ごした。 翌朝は足元が見える時間になって出発する。「北白谷山」(1,340m峰)と呼ばれるピークから奥八人山を経て中八人山まで、広葉樹林と草地が広がってどこも快適に歩ける。最後は露岩のあるヤセ尾根と急登をこなして頂上に到達した。周囲は自然林だが、西面の北谷流域を見ると広範囲に植林地もある。紀伊半島は、やはり木材の生産地だと認識をあらたにした。 最高峰の南八人山を往復し、西八人山にも寄ってから宮ノ谷ノ頭へ向かう。だんだん植林地が増えてきて、石佛山から滝谷橋へ下る支尾根には、モノレールが途中から敷設されていた。標高差800mの急峻な道を一気に降る。 予定より早く下山できたので、奥里の集落から風屋ダム近くまで山里の風景を心に刻みながら歩く。下地(しもじ)には天誅組の参謀・記録方だった伴林光平(ともはやし みつひら)の歌碑が立ち、高原(たこはら)に至る吊橋とトンネルの通学路(村道=栗平川森林鉄道の軌道跡)もあった。秋の風情が漂う道端ではアザミやキクなどが目立つ(2023.10.28〜10.29)。 |