三田市と丹波篠山市の境界にある虚空蔵山は、虚空蔵堂がある摂津側の呼称である。日本六古窯のひとつ、丹波の立杭(たちくい)側では局笠(つぼねがさ)山と呼ぶ。貴婦人がかぶった局笠に見立て、西側からは美しい山容を仰ぎ見ることができる。「藍本」駅から虚空蔵堂に向かい、下山は今田(こんだ)町にある「丹波伝統工芸公園・立杭陶の郷(すえのさと)」とする。せっかくの機会なので、立杭焼の窯元や町並みを散策できる時間も含めた。 藍本はかつての宿駅で、今はほとんど面影がなく農村風景に包まれる。舞鶴若狭自動車道を潜ると登山口で、表参道が山手につづく。清めの石舟を過ごせば石が敷かれた山道になる。石段を登り切れば虚空蔵堂の前で、傍に立派な鯱(しゃちほこ)が残されていた。役行者像を見て急坂を登ると、立杭からのコースが合流して尾根道になる。コウヤボウキをはじめ秋の草花が咲き、サルトリイバラ(サンキライ)の赤い実も鮮やかだ。露岩が現れると山頂で、標識とテーブル・ベンチが設置されたピークは596mと表示される。地形図の標高点はもう少し先の592mで、確認するため往復したが何もなかった。北へ向かう尾根は八王子山から大谷山を経て草野方面に連なる。 露岩の上と頂上で展望を楽しんだ。木々に遮られるため大パノラマとはいかなかったが、丹波・摂津・播磨にまたがる多くの山々が視野いっぱいに展開する。時間が経つと海側の空気が澄んできたのか、淡路島と小豆島の輪郭が明瞭になった。近くは、低いながらも北摂の起伏に富むピークが魅力的な山容で私たちを誘う。 整備された自然歩道を降り、谷筋の植林地から山麓に設けられた公園へ下山する。この日は「陶器まつり」が開かれていて、多くの人々で賑わっていた。上立杭の集落に入ると、以前に見た稲荷神社の大アベマキが倒れて石段まで壊している。大きな登り窯では、ボランティアによる解説が行なわれていた(2023.10.22)。 |