頸城(くびき)山地の西端にある雨飾(あまかざり)山は、雨(天)を祀る山であり降雨祈願に関係していると伝わる。古くは「天錺」が使われたらしい。日本海に近く気象変化が激しいので、いつも雨に見舞われるからという俗説もあるほどだ。今回は、まさにその状況下での登山になった。 かつて、積雪・残雪期と紅葉の季節に訪れたが、いちばん印象的な秋を選ぶ。参加者の希望を踏まえ、梶山新湯(雨飾温泉)と小谷(おたり)温泉に宿泊する計画である。 夜半はけっこう雨が降っていたものの、雨飾山荘を出発する頃にはほぼ止んだ。天然スギの巨木が立つ急な尾根を登ると、徐々に黄葉・紅葉が目立ってくる。糸魚川の西方にある黒姫山から日本海が眼下に望める。中腹では見事な色彩に包まれ、周囲の景観を味わいながら中ノ池へのトラバース道に入る。稜線に近づくと海谷山塊の特徴ある山々が北側に姿を現した。 小谷温泉からのコースが合流する頃から霧雨になる。展望は望むべくもない。平坦で広い尾根から急坂をひと登りで山頂に到達。石祠に二等三角点のあるピークと石仏が安置されたピークが並ぶ。 下山時に少しガスが流され、一瞬だが「乙女の横顔」を描く登山道が見えた。笹平で金山へつづくシゲクラ尾根を分け、荒菅(あらすげ)沢支流左岸のヤセ尾根を降る。ハシゴとフィックスロープが数ヶ所あり、濡れているため慎重に足を踏み出す。標高1,500mぐらいで周辺が眺められるようになり、布団菱の岩峰群が見え始める。光の関係だろうか、梶山側に比べこちらの紅葉がより綺麗だ。開けた沢の徒渉点で休憩し、そのあと緑が混ざるブナ林を降る。 キャンプ場のある登山口から、秋の草花を見ながら小谷温泉まで歩いた。時間の関係で鎌池には寄らず、明才堰の碑を見てこの地の暮らしに思いを馳せる。文面によると、明治12(1879)年から4年の歳月をかけて開かれた灌漑用水で、明治時代の「明」と事業を主導した横川才蔵の「才」から名づけられたという。 弘治元(1555)年に、武田信玄の家臣によって発見された小谷温泉では、江戸時代以降の歴史に浸るひとときを過ごす。三度目で荒菅沢から「久恋の頂に立った」と語る深田久弥が滞在した座敷には、西郷隆盛の弟による書の扁額が掲げられていた(2023.10.15)。 |