『山旅倶楽部』で希望のあった常念岳・蝶ヶ岳に、大滝山から徳本(とくごう)峠のコースを加えて縦走してきた。はじめは7月下旬を計画していたが、小屋の予約がまったく取れなかったので、1ヶ月遅らせて実施する。 行程は前日に麓の安曇野で宿泊し、一ノ沢登山口から入山。常念乗越で一泊し、次の日は主稜を南下して大滝山まで。3日目に徳本峠から明神へ下山して上高地まで歩く予定にした。 天気予報は連日雷雨の可能性を伝えていたが、幸いどの日も小屋へ着いてからのにわか雨で終わった。ただ、台風と湿った空気の影響から雲のかかる場面が多く、すっきり晴れたのは3日目の朝方だけだった。行動の途中でガスが上がると、3,000m峰が姿を現したりお花畑が広がっていたり、変化に富む場景がなかなか美しい。 標高差が大きい区間は、一ノ沢の最終水場から常念乗越までと、400メートルほどある常念岳の登降に蝶槍(ちょうやり)の登りである。この区間をどうこなすかがポイントになる。 登山口で松本深志高校山岳部のパーティと出会い、1967年8月1日の西穂高岳雷雨遭難事故のことを先生に話すと、今も慰霊登山をされているとのこと。報告書の刊行を待って、わざわざ送ってもらうほど私にとってショッキングな出来事だった。初めての夏山合宿(高校1年)で経験した激しい雷雨だったので、ことのほか記憶に残っている。当時を振り返りつつ若者のグループと前後しながら沢筋を進む。 常念小屋へ着いてしばらくすると、槍ヶ岳の穂先が見えていた。あわてて外に出たが、タイミングを逃して写真に収めることはできなかった。また、晴れることもあろうかと横通(よことおし)岳まで登ったが、ガスがまとわりついたまま夕方になる。 常念岳から岩が積み重なった下りを終え、蝶ヶ岳のエリアへ入るとなだらかな地形に変わる。蝶槍と三等三角点(蝶ヶ岳)を経て最高地点へ。三股への道を分け、大滝山に近づけばお花畑と小さな池が点在する。 徳本峠へつづく中村新道は樹林帯の中を緩やかに下ることが多い。下山向きのコースで、途中の大滝槍見台と明神見晴で展望を楽しむ。峠から慎重に黒沢の右岸へ降りて梓川左岸に向かう。 登山前日は時間があったので、柏矢町(はくやちょう)駅付近で湧水や山葵の栽培を眺め、山岳写真家で高山蝶の研究でも知られる田淵行男(たぶち ゆきお)の記念館に立ち寄った。モノクロームの写真集=『北ア展望』(1966年 朝日新聞社)で知っている表現を目の当たりにし、高山蝶の見事な細密画に圧倒される(2023.8.26〜8.28)。 |