多紀アルプス(多紀連山)の御嶽(みたけ=三嶽)と小金ヶ嶽は登山講座で以前に出かけたが、西ヶ嶽は未踏のままだった。岩場がつづく修験の山なので、距離と時間を短めに設定して計画する。栗柄奥(くりからおく)の八柱神社から愛染窟を経て650m峰(「前山」)に登り、御嶽(三嶽)との分岐からピークをめざす。そして、藤岡ダムに向かう途中から西側の谷を栗柄口へ下山した。 この山域には鎌倉・室町時代から修験者が集い、蔵王堂・大岳(みたけ)寺・福泉寺など多くの寺院が営まれていた。説明によると、文明14(1482)年に大峯山との勢力争いに敗れ焼失したという。御嶽(三嶽)から西ヶ嶽を経て養福寺(観音堂)へ下り、滝ノ宮で水行を行なうものを「胎蔵界廻り(裏行)」といい、筱見(ささみ)四十八滝から御嶽(三嶽)の行者堂へ向かうルートが「金剛界廻り」(表行)とされる。 栗柄は倶利伽羅のことで不動明王にちなむ地名である。集落から谷沿いの石段を登ると愛染窟が目の前に現れ、光が漏れる窟の中に愛染明王が祀られていた。上部は急斜面と岩場がつづき、慎重に鎖場と石段をたどる。尾根に出て昼食の休憩をしたのち、西ノ覗から丹波高原の山なみを眺める。鞍部から登り返すと再び岩場があった。こちらも見事な眺望だ。主稜に合流し、岩が目立つ小ピークを越え登りきった峰が西ヶ嶽の頂上。北面を中心にすばらしい風景が展開する。しかも、徐々に青空が広がって青葉山の双耳峰も確認できた。 支尾根にある574m標高点の分岐近くにも再び展望ポイントがあり、最後の眺望を楽しむ。尾根を離れる地点の周辺は雰囲気のよい自然林で、先ほどまでのリョウブやアセビの林とは景観が異なる。擬木の階段を降ると荒れた谷に出て、植林地と放棄された茶畑を通って栗柄口にある民家の前に降り立った。 栗柄は興味深い地形で谷中分水界がある。鼓峠から下る宮田川は加古川水系で瀬戸内海へ流れ、杉ヶ谷から栗柄ダムに流れる水は竹田川となって由良川から日本海に注ぐ。両川の間は150mほどしかなく、河川争奪の結果だろうかほぼ平地である。往路ではまったく知らずに通り過ぎた。時間があったので現地に足を運べばよかった(2023.5.23)。 |