知谷峠は原(南丹市美山町)と上弓削(かみゆげ=京都市右京区京北町)の間にあって、高浜街道と小浜街道をつなぐ短絡路の役割を果たしてきた。由良川と桂川水系を分ける中央分水嶺にあたり地勢的にも重要な峠である。「牛馬(うしま)ノ峠」とも言うらしい。 林業の盛んな地域だけに両側の谷筋には林道が敷設され、稜線にも丹波広域基幹林道が延びる。そのため古い峠道はほとんど残っておらず、鞍部付近だけ昔の面影をとどめる。 由良川支流の原川を遡ると、かつて珪石を採掘した美山鉱山跡から大瀧不動に至る。今冬の雪による倒木が行く手をさえぎり、何度も乗り越えたり迂回を余儀なくされた。なかには、枝打ち作業などがきちんとされている区域もあって山林の状況は様々である。支谷が合流する湿地にクリンソウが群生していた。同時にヒルも出現。 清水丸(しょうずまる)谷を詰めると、最後の標高差100mほどはカーブを描きながら登って稜線に達した。峠は少し南にあり樹林の下に掘り込まれた道が残る。時間があるので、広域林道のそばに位置する滝ノ上(たきのうえ=タジリバタノウエ)を往復する。途中で展望のよいところが何箇所かあり、京北と日吉・美山方面の山なみを望むことができた。ネットに囲まれた植林地の際を山頂に向かうと、モミ林になって三等三角点(点名=脇谷)に到達する。 脇谷に下る林道で知谷の本流へ出て、上弓削の十一(じゅういち)まで歩く。旧道をたどることは叶わなかったが、山里の風景はどこも美しく落ち着いていた(2023.5.16)。 |