大江山連峰の赤石ヶ岳から西へ、与謝(よさ)峠を挟んでつながる江笠山は、与謝野町・福知山市(雲原)と豊岡市(但東町)にまたがる山だ。この付近の山稜ではもっとも高く、南側の神懸(かんかけ)峠と標高480m前後の山腹をトラバースする西国三十三所観音巡礼の道(丹後街道)が横切ることでも関心を持っていた。書寫山圓教寺(第二十七番)から成相山成相寺(第二十八番)への道筋にあたる。 参考のため山行記録を検索すると、薬王寺峠近くの登山口から登るものばかりで、この山のよさや信仰の道を考えると物足らない。ここは、やはり京都側の落葉広葉樹林や仏岩と一緒に歩きたい。いろいろ行程を考えた結果、神懸峠を出発して旧道を大生部兵主(おおいくべひょうず)神社へ降り、薬王寺川を遡って登山口から入山。山頂から府県境稜線を南下し、仏岩に参拝してから仏谷へ出ることにした。あとは時間次第だが、巡礼道と周辺の山々を眺めながら街道を歩こう。 神懸峠までは順調に来ることができたものの、薬王寺への旧道はほとんど廃道になっていた。田圃跡にイネ科の草が生い茂る。放棄されてかなりの年月が経つようだ。山裾に広がる牛頭(ごず)天王を祀る大生部兵主神社の神域は好ましく巨樹も多い。薬王寺川の本流と出合い、冬期の通行止ゲートを通って登山口に高度を上げるが、地元の車両は普通に通行していた。 谷沿いの山道では、雪による被害か倒木を何本も見る。なかには芸術作品を思わせる裂け方をした木もあった。南側の尾根へ取りつく手前に小滝が懸かり、尾根へ出るとオオイワカガミの群落が行く手に広がる。明瞭な道は稜線までつづき、ほどなく頂上に達した。 新芽が出始めた東面の林は美しく、樹間から大江山の山稜がたおやかに波打つ。地形図で小ピークを確認しながら仏岩への尾根の分岐に着いた。西面はほとんど植林地だったが、林床にはオオイワカガミが次々と現れる。まだ時期が早いのか、開花しているのはごく一部だった。 その後も群生地がつづき、明るい広葉樹林のため快適に歩ける。ツツジの鮮やかな花に包まれると仏岩の上部に着いた。大江山がいっそう近づき、麓の集落が手に取るほどの距離となる。慎重に下へ降りると二つの岩に挟まれて祠が建っていた。麻呂子(まろこ)親王にまつわる伝説の舞台である。鬼退治を祈願して七仏薬師を刻んだとされる。大江山一帯には、ほかに日子坐王(ひこいますのきみ)の土蜘蛛退治伝説や「酒呑童子」で有名な源頼光の鬼退治伝説がある。落葉に覆われた参道は、深山川にある水道施設の傍で林道へ降り立つ。 仏谷にある十二社大権現神社から旧道を下流へ。途中には巡礼者の安全を祈願する地蔵尊や供養塔が残り、南(な)島から坂浦まで行って山行を終えた。自然と人文的要素が凝縮する一日だった(2023.4.13)。 |