北山川の景勝地として知られる「瀞八丁(どろはっちょう)」に寄り道した。プロペラ船の時代からウォータージェット船に変わり、いつでも行けると思っていたところが、2020年を最後に運行が休止された(予約制の瀞峡めぐり舟は就航)。 そこで、十津川村からの帰途に熊野市へ回れば、なんとか景観を楽しめそうだと気づく。十津川温泉から村営バスで瀞八丁まで乗車し、田戸の瀞ホテル前から歩き始める。ここは1917(大正6)年に「あづまや」として開業した筏師のための旅館で(現在はカフェ)、峡谷を見下ろすロケーションがすばらしい。 下ってきた葛(くず)川と北山川が合流する地点が奈良・和歌山・三重の県境で、詳しく見ると新宮市(和歌山県)の飛地があったりして、複雑な地域性を表している。 上瀞側に少し歩くと、山彦橋(全長83mの吊橋)が渓流を横断する。橋上から見渡すと断崖がつづき、特別天然記念物やジオパークに指定されたことを納得。急いで「筏師の道」を登り始める。なにしろ、今日中に帰宅するには1時間30分後に瀞大橋から発車するバスに乗車しなければならない。左岸にほぼ水平の道があり、紀和町(三重県)木津呂(きづろ)の入口まで杉林がつづく。 流域一帯はスギの産地として知られ、木材を束ねた筏で熊野川河口の新宮まで運んだ。地形が険しく道路もなかったことによる運搬方法だが、帰りは筏師自ら歩くほかなかった。その道を下流に向かう。 大きく屈曲した行く手は、川幅も広がって雄大な風景に変わる。車道を約3キロメートルで板屋川を渡り、発車時刻直前に国道311号の瀞大橋へ着いた。ほかにも「筏師の道」はあるので、機会があれば歩いてみたい(2022.10.25)。 |