祖谷(いや)川流域にある寒峰(かんぽう)・塔丸(とうのまる)・三嶺(みうね)などと一緒に、剣山へ登ったのは数十年も前のことである。このほどリクエストに応えて出かけることにしたが、キレンゲショウマの花期がまず頭に浮かんだ。当時はピークをめざすのが第一で、季節のことなどほとんど関心をもっていない。 アクセスは阿波池田(三好市)から東祖谷山に向かい、見ノ越を基点に一ノ森から剣山と次郎笈(じろうぎゅう)に登って見ノ越へ戻ることにした。できれば奥祖谷のかずら橋に下山したかったが、帰途の時間がネックとなり貞光(つるぎ町)へ出る。剣山頂上ヒュッテで泊まるため、比較的短い距離と時間で周回できる。祀られた神々や展望を各所で楽しむ予定だ。 登路では西島神社・刀掛ノ松・古劒神社・両劒神社などに立ち寄り、神の宿る岩場と急斜面に目を見張る。1965年3月16日に劔山測候所の職員が雪崩によって亡くなった。新田次郎の言葉が刻まれたその殉難碑で尾根に達し、一ノ森を往復する。二ノ森からもう一段上に登ると、ガスに包まれたテラスと木道が現れ劔山本宮宝蔵石神社へ登り着いた。 翌朝は、風格を漂わせる次郎笈を前に笹原の縦走路をたどる。早々とガスに覆われ、残念ながら山頂からの景色は望めなかった。北西側の水場に寄ってから吊尾根へ戻り、大劒神社へのトラバース道に入る。赤く塗られた標石がつづくので、神社と国有林の境界なのだろう。御塔(おとう)石の下に御神水(おしきみず)が湧いていて、病気を治す若返りの水として知られている。安徳帝を擁した平家一族が再興を祈願して帝の剣を奉納したと伝わる。 登山リフトの西島駅から西島神社の上部にある太鼓くぐりの岩場を見て、先にある間者牢を往復した。祖谷川の源流に広がる樹林はすばらしく巨木が目立つ。緩やかな道は下山路に相応しい。劒神社と円福(えんぷく)寺に御礼の参拝をしてから、登山リフト見ノ越駅近くの自然情報センターを覗く。
行き帰りに時間があるので、タバコ産業で知られた阿波池田と、卯建(うだつ)のある家屋が並ぶ一宇(いちう)街道の貞光(さだみつ)を散策する。かつては、どちらも商業・交通の要衝として発展した町で、往時の面影が残っている。前日は琴平の「こんぴらさん」にも寄って、この地方の風土の一端を味わった(2022.8.6〜8.7)。 |