雪質のよいスキー場としてニセコの山は知られる。かつては「東洋のサンモリッツ」とも呼ばれ、海外の人にも人気のスキーリゾートである。主峰のニセコアンヌプリをはじめ、イワオヌプリ・ニトヌプリ・チセヌプリなどが東西に並ぶ。雷電山の西端は日本海に沈む。山麓には温泉が点在し、戦前まで硫黄を採掘した鉱山跡は近代化産業遺産に選ばれている。 これまで、山麓や周辺を何度か訪れたものの、ニセコ連峰(火山群)に足を踏み入れることはなかった。どちらかといえば冬(スキー)の山で、ワイスホルンなど無雪期の登頂が難しいケースも多い。今回は簡単に登れる前記4座を目標にした。 倶知安(くっちゃん)から基点となる五色温泉インフォメーションセンターに向かい、まずニセコアンヌプリを往復する。川の名称である「ニセイ・コ・アン・ペッ」(山中の崖谷に向かっている川)が山名の由来とされる。泥濘の樹林帯を抜けると多くの花が道を彩り、ガスに覆われた山頂へ登り着いた(一等三角点)。この時点では、山麓や後方羊蹄山が望めるときもあった。 次に硫黄の山(イワウ・ヌプリ)を意味するイワオヌプリをめざす。この山群ではもっとも若い火山で、入れ子状になった火口が複雑なため、慎重に地形図を見ながら進む。最高地点の東峰も往復する。小イワオヌプリ(1,039m)は帰途に時間があれば立ち寄ろう。 ニトヌプリへはカルデラのような凹地へいったん降りる。花は終わっているものの、ツバメオモトの群生する道が印象的だ。フィックスロープが張られた砂礫の斜面を降りると、岩が点在する庭園のような光景が現れる。しかも、白や黄色の花がまとまって咲き乱れる。森のある山(ニドム・ヌプリ)という山名どおり、すばらしい演出に感動する。登り返して広い尾根に出たあと、もう一段登って山頂に着いた。 距離が離れているチセヌプリは行けるかどうか微妙だったが、なんとか往復できそうなので進む。歩きづらい道になったものの、景色や花を気にする必要がないのでペースを上げた。共和町と蘭越町を結ぶ道路(ニセコパノラマライン=道道66号)に出て、西側にある登山口から標高差300メートルを登りはじめる。岩溝や大岩を乗り越えながら、風と霧雨の山頂に登頂(二等三角点)。山容がアイヌの伝統的な家屋(チセ)の形に由来するとされるが、全貌を確認することはできなかった。 帰途のルートはわかっているので、気分的に余裕が生まれる。往路で見落とした植物に注意しながら五色温泉へ戻った。山中でも外来種が咲く場面に何度か出合う。人による自然への影響が大きいのだろう。 けっきょく、この日は朝の早い時間しか展望の得られる機会はなかった。だが、倶知安への道路を下ると中腹の牧場で視界が開け、山麓の天気は一日よかったという。海からの湿った空気と地形がもたらすニセコの特殊性といえるのかもしれない(2022.7.14)。 |