日高山脈南部のアポイ岳は、主稜から離れた様似(さまに)町の海に近い山塊にある。なにより有名なのは固有種を含む植物の宝庫で、「アポイ」がつく種類の多さがそれを証明している。プレートの衝突によって形成された山であり、マントルがそのまま露出しているため独特の土壌が広がる(幌満橄欖岩帯)。山名は「火のたくさんあるところ」(アペ・オ・イ)を意味し、神の山であった。北側のピンネシリは「男・山」(ピンネ・シリ)で、「女・山」(マチネ・シリ)とセットになっている。 遠隔地だけに、現地まで飛行機と高速バスなどで10時間近くかかった。海辺は晴れていたものの、中腹から上部は雲に覆われ山の様子がわからない。翌朝も同様の天気で、登山口を出発する頃から霧雨になる。はじめは針葉樹林だが、標高700メートルを超えるとハイマツ帯になって花が増えてきた。957m峰は東側をトラバースし、ピンネシリは西側を巻いて折り返すように登頂する(三等三角点)。ハイマツ帯を吉田岳(825.1m)との最低鞍部に向かうと、海側の霧が途切れ始めた。やがて、様似の町が望めるようになる。青い海の広がる見事な風景が眼下にあった。稜線の上部は針葉樹だったが下部は広葉樹の林が広がる。 登り返して、標高が800メートルに近づくと再びハイマツが目立ち始める。高山植物群落(特別天然記念物)はロープで立ち入りが規制され、コース以外を歩くことはできない。吉田岳もトラバースしてから頂上へ折り返す。残念ながら、主稜線の神威岳・トヨニ岳・楽古岳などを望むことはかなわなかった。岩峰を巻きながら、最後の登りを頑張ってアポイ岳(一等三角点)にたどり着く。標高の低いエリアに高山植物の咲く岩礫・ハイマツ帯があり、その上部にダケカンバ林が広がる垂直分布は珍しい。地質と気象条件によって、逆転現象が起きているのだろうか。 馬ノ背のお花畑をゆっくり降ると、花の株にあちこちで白い袋が被せてあった。保護と種子の採取を目的とする処置だろうが、風に揺れる様子は異様である。地元にとって、広くアピールすればするほど環境やオーバーユースが問題になる。ガイド団体に所属する人の話にも対策の難しさが感じられ、人気の山の現実を垣間見る。五合目の避難小屋で休憩の時間をとり、穏やかになった樹林帯をアポイ岳ジオパークビジターセンターめざして降った(2022.7.12)。 |