若い頃の浅間山はいつでも登れる山であった。火山活動が活発になって入山規制が敷かれ、最近は登頂の機会が失われたままである。部分的にでも体験しておこうと、車坂峠から「表コース」で外輪山の槍ヶ鞘に達し、トーミの頭から草すべりで湯ノ平口にいったん降る。急斜面では夏の草花が多く咲き始めていた。群生するユキワリソウが見事だ。 賽ノ河原から砂礫の斜面を斜上し、尾根に出る地点で折り返す。ちょうど正午なので、避難シェルターの周辺では休憩する多くの人の姿があった。前掛山に登頂して賽ノ河原の分岐まで戻る。ザレ場に馴れない人がいかに多いことか、何度も時間待ちや渋滞が発生する。 メーンコースを離れ、Jバンドへ向かうと途端に静けさが戻った。やっと、カラマツの新緑や周囲の風景を楽しむ余裕が出てくる。岩場の急斜面を登り返し、鋸岳・仙人岳(三等三角点)・蛇骨(じゃこつ)岳を経て黒斑(くろふ)山までは起伏のある尾根歩きである。標識の「蛇骨岳」はピークになく、地形図を頼りに樹林帯の頂上を往復する。 紀行文や随筆など、浅間山を取り上げた作品は数多ある。山容の優美さと山肌が詳しくわかる黒斑山は、浅間山を間近に望む展望台として価値ある一峰であろう。トーミの頭から尾根を外れたところで、ニホンカモシカと遭遇した。こんなに近くで出会ったのは初めてだ。盛んに樹木へ角を擦りつけていた。歩きやすい「中コース」を利用して車坂峠へ下山。いろいろな出来事と要素が詰まった一日になった。 時間があるので、高峰高原ビジターセンターでゆっくり過ごす。防災用として、ヘルメットの無料貸出が行なわれていた(2022.6.4)。 |