日本三景のひとつ「安芸の宮島」といえば、誰もが厳島神社と弥山をイメージする。山頂近くまでロープウェイで上がれることもあって、山歩きというより観光で取り上げられるケースが多い。 かつて大元神社近くで宿泊し、時間の余裕があったので仁王門から弥山に登って紅葉谷へ下山したことがある。登路にした大元コースはモミの巨樹と岩場が多く、なかなか楽しめる道であった。その時に見た南につづく峰々をぜひ歩きたいと思っていたら、広島の知人もわざわざ出かけたという。まる1日かかる島の山歩きはほとんど人と会わず、歴史や風景を楽しめるコースのようで、ぜひ行きたいと思った。 温暖な瀬戸内だけに、寒い時期に計画する。前日に出発地まで入っておき、9時間半の行動で日暮れまでに宿舎へ戻るよう考えた。 幸い天気に恵まれ、駒ヶ林や弥山だけでなく各所で展望が得られた。帰途の時間を気にしなくてもよいので、山上の堂社にもそれぞれ参拝した。奥ノ院では大きなツバキの木が多くの花を付け、静寂の空間に彩りを添えている。次のニクイ(502m)まで曖昧なルートだったが、尾根に出ると明瞭な道がつづいている。途中には「海軍省」「呉要塞」を示す標石が残り、近現代の様子を認識できるルートでもあった。 大川浦への分岐から岩船岳を往復し、緩い谷を西に下山する。反対側に下ると陶晴賢の碑がある高安ヶ原へ行けるが、日の短い季節だけに無理は禁物と諦めた。明治時代の近代化遺産である室浜砲台跡に立ち寄り、広島大学自然植物実験所で樹木名を確認しながら日が傾いた道を宿まで歩く。予定どおり、9時間20分かかった(2020.2.1)。 |