南丹市にある海老坂は、桂川水系と由良川水系の分水嶺を越える峠である。若狭と丹波・京都をつなぐ街道のひとつであり、現在の道路網ができるまでは重要な役割を果たしてきた。また、北桑田郡(美山町)と船井郡(日吉町)の村々を結ぶ暮らしに密着するルートでもあった。金久昌業氏の『北山の峠(下)』によれば、由良川を流してきた筏材を荷って大堰川(田原川)へ運んだ歴史があるという。 交通の要衝だった四ツ谷(よつや)は豊かな佇まいをとどめ、中組の岡安神社付近はことのほか美しい景観が見られた。海老谷を遡った玉岩地蔵堂でも再び美しい紅葉を楽しむ。ここは八百比丘尼の伝承があり、堂の裏手にその大きな岩が姿を覗かせていた。参籠する人々のために規模の大きい建物が隣接して残る。 近年の災害で荒れた谷筋から斜面に取り付くと再び落ち着いた峠道になり、雑木林の中を何度かの折返しで鞍部に着いた。傍らには小祠と標石があり、西側の上部に古い形の宝篋印塔が建っている。人々の往来と歴史を感じさせる峠であった。 北斜面には丹波広域基幹林道が通り、そこから北側の海老谷に向けて広い道が下っている。こちら側は植林地が多い。板橋(美山町)の旧道には道標があって、「左 京ミち/右 ゑひさか」「右 妙見□」と彫ってあった。盛んだった往還を思い起こさせる。北へつづく宮脇まで歩き道祖神社に参拝する。本殿の奥には大きなカヤがそびえていた。まさに、この日は「京都再発見」のトレッキングになった(2019.11.19)。 |