仙人池から仙人谷に降り、仙人温泉を横に見ながら雲切新道で仙人谷ダムまで1,000m以上を一気に下る。黒部川本流に出合うと左岸の水平歩道が始まった。堰堤を右岸に渡って上流へ向かえば黒部ダム(くろよん)に行ける。ただし、夏になってからコースの整備が行なわれるため、通行できるのは一年を通じてわずかな期間しかない。この日も、ダムサイトからヘリコプターで資材が頻繁に運ばれていた。 黒部峡谷の水資源に注目した高峰譲吉(実業家・タカジアスターゼの発明者)らによって、黒部川流域の電源開発は始まった。その調査と作業を支えたのが水平歩道で、1920(大正9)年に開通する(延長=約13.6キロメートル)。その後、大阪に本社を置く日電(日本電力)が引き継ぎ、水力発電所の建設に向けて開削したのが下ノ廊下を遡る旧日電歩道である(延長=約16.6キロメートル)。どちらも、戦後は関西電力が受け継いだ。 仙人谷ダムの堰堤から高熱帯をトンネルで通過し、道は標高1,000m前後でつづく。途中の阿曾原温泉小屋は、工事で湧出した温泉を利用するコース唯一の宿泊施設である。雪崩が起こる険しい斜面に建っていて、組み立てと解体が毎年なされる。建材や備品はすべてトンネル内に格納されるとのこと。 支流の折尾谷には堰堤が築かれ、その内部を通過する。太鼓を立てたような地形を横断する大太鼓はスケールを感じる景勝地だ。対岸に屹立する花崗岩の壁は奥鐘山西壁で、国の名勝・特別天然記念物に指定されている。クライマーにはよく知られた岩壁である。 長い曲線のトンネルで通過する志合谷は、ヘッドランプを用意しなければならない。しかも、内部に水が溜まっていて流れの中を歩く。落葉広葉樹林を進むと送電線の尾根に出て、周囲の山々が見える展望台に着いた。トロッコ列車の汽笛が近くで聞こえると欅平に降り立つ。下の写真は道中で見た花たち。他にゴマナ・ミゾソバ・ノコンギクなどが各所で咲いていた(2019.10.2〜10.3)。 |