参加者にとって穂高連峰のハードルが高かったのは、北穂高岳から涸沢岳にかけてのルートである。山行の核心部だけに、最悪の事態に備えて補助ロープとハーネス・カラビナなどを用意した。もちろん、三点支持など岩稜を歩く基本も踏まえている。 北穂沢を登って南稜へ向かうと、落石の乾いた音が突然上から聞こえてきた。大声を出してハイマツの中に体を伏せたが、少し離れたガレを直径2メートルはある石が飛び跳ねて落ちていく。しばし小さな石の崩れ落ちる音が響いていた。コース上部に多くの人の姿があるので、自然の落石か人為的なのかはわからない。あらためて、岩山の危険を知らされた。 テントサイトになっている南稜テラスから、まずは松濤岩の基部を北峰へ向かう。そのあと戻って南峰に登り最高地点を確認。いよいよ正面の滝谷ドームに向けてスタートする。飛騨側から信州側へ回り込み、奥壁バンドをトラバース(飛騨側)していく。その後は涸沢ノコル(最低鞍部)まで下りがつづく。鎖の懸かる一枚岩を越えてから次の鞍部に下る(ニセ涸沢ノコル)。いよいよ涸沢槍の登りで、飛騨側に長い鎖が張り巡らされ、途中には梯子もある。山頂には登らず、D沢ノコル・オダマキノコルを過ぎると三角点ピークへ梯子がつづく。傾斜のない尾根に出ると涸沢岳の最高地点が行く手に見えた。何事もなく通過できたので胸を撫で下ろした。 穂高岳山荘で泊まり、翌日は奥穂高岳から前穂高岳をめざす。登りはじめに鎖と梯子があるものの、昨日のルートに比べれば技術的にはなんら心配する必要がない。吊尾根も同様で、分岐から積み重なった岩を登って前穂高岳に登頂。重太郎新道は紀美子平からの下りが急峻で、慎重に足を踏み出すよう注意喚起して出発。ハイシーズンだけに降りも登りも多くの人が列をなし、声を掛け合いながら進まざるを得ない。結果として、安全に結びつくゆっくりとした行動になった。みなさんにとって、自信になる山行となったのではないだろうか(2019.8.2〜8.3)。 |