冬の白峰南嶺を歩いて以来、数十年ぶりで白峰三山へ行く機会ができた。南アルプスは高校山岳部の時から馴染みがあって、スケールの大きさと水量豊かな沢に魅力を感じてきた。森林の良さも気に入っている要素である。 八ヶ岳や北アルプスに比べて一般的にハードルが高いのか、希望が寄せられたのでメーンコースを一緒に出かけようと一年前から計画した。特徴を出すため、花が多い小太郎山への往復も盛り込む。もう一つの期待はキタダケソウの花と出合うことである。そのため、梅雨明け前後の静かな時を狙うことにした。ただ、安定した時期ではないため雨天を覚悟する必要がある。いろいろなケースが考えられ、行程の変更も柔軟に対応するつもりだった。 広河原への入山日はときどき太陽も覗く曇り空。ただ、標高の高いエリアはガスに覆われていた。北岳へ登る日は前夕から雨模様で、雨具を着て出発。白根御池を経て小太郎尾根分岐に着く頃は、雨脚が強くなってミゾレのような粒が降ってきた。北岳肩の小屋で夜の天気予報を確認すると、日付が変わる頃より午前9時頃は晴れそうだ。大気の状態が不安定なため午後は雷雨の危険性が高い。それまでに農鳥岳へ達していたら逃げ切れると踏み、朝食をとらずに早朝の出発を決める。縦走路では、周囲の景色を楽しみながら花々にも目をやって進む。振り返ると北岳・間ノ岳が時折ガスに包まれていた。残念ながら、赤石山脈南部はずっと雲に覆われている。大門沢小屋でもう一泊し、災害で迂回路が設けられた広河内をゆっくり下山する。橋が流された支流は慎重に渡らなければならないが、森山橋(吊橋)上流の本流は仮設の鉄橋で渡れるようになっていた。奈良田第一発電所入口からは、10トンダンプカーが行き来する道路を歩く。 けっきょく北岳から奈良田まで恵まれた天気で推移し、再び降り出した雨のなか信玄の隠し湯といわれる下部温泉に向かう。深く高い山々を堪能した4日間だった(2019.7.15〜7.18)。 |