「京都再発見」の講座で、和束町の湯船地区を訪れた。これまでに町のあちこちを何度もトレースしており、三ヶ岳や鷲峰山などで広がる茶畑を眺め楽しんできた。今回は甲賀市信楽や南山城村に近い一番奥のエリアである。加茂駅からバスで40分も乗車した。 和束川支流の鎌倉谷の左岸には百丈岩があり、これをメーンテーマとして湯船の山里を歩く計画にする。岩場は「京都の自然200選」のひとつになっており、花崗岩のコア(芯)が残る景観に期待が膨らむ。和束町小杉にある大智寺を開創した大観禅師がこの岩で100日間修行したとされ、八畳ほどの大きさから八帖岩とも呼ばれている。西側のすぐ下に文殊菩薩を彫った文殊石もあり、周りの小広い地形から修行場だった雰囲気が窺える。辿り着いたときは雲や霧に取り囲まれ、いっそう深い印象を与えてくれた。しばらくすると、谷を挟んだ南方に三ヶ岳の山頂が見えはじめる。 道路から分かれる地点に古い標識があったものの、途中の谷筋や斜面はけっこう荒れていて、行場の鳥居は笠木などが失われて寂びしい姿を曝していた。支谷から尾根に出ると地形も緩やかになって、松の木に薬剤を散布した目印が目立つ。なかには、数日前の日付も認められた。辺りを見回すと、アカマツが多く生えて林床もすっきりしている。きっと、マツタケがよく出るのだろう(秋季は入山不可)。 下山後、川沿いに下流へ向かうと大きなカヤが道端に聳えていた。そのあと坂の上にある百丈山大智寺に参拝する。古木のある落ち着いた境内が心地よい。茶畑に点在する民家や瓦屋根の家並みを愛でながらできるだけ旧道を進む。見事な枝垂桜の西願寺や巨木が並び立つ白山神社も好ましい空気に包まれていた。鳥居の際には地名の由来になった湯槽が現存する。 山間の集落風景だが、民家の造作をみると豊かな地域であることが見てとれる。帰途の車内で若い茶農家の人と出会い、栽培や収穫の話を聞くことができた。3ヶ月の仕事で1年の生活ができるとは、なかなか価値の高い生業だ。もちろん、目に見えない苦労や気遣いがあってのことだが、和束町だけで成り立つ地域社会はすばらしい(2019.2.19)。 |