登山リフトとロープウェイを使って簡単に登頂できた武奈ヶ岳が、今では健脚向きの山になっているという。2004年に廃止されて以降、どのような状況になっているのか一度この目で確かめたかった。江若鉄道比良駅からダケ道を使った、かつてのメーンコースの下山見聞録。
武奈ヶ岳の山頂直下は、強い季節風の影響を受けるため草と灌木しか生えていない。ところが、その下部は落葉広葉樹が大きくなってツルベ岳の山容もほとんど見ることができなかった。イブルキノコバ周辺はアシウスギの巨木があちこち見られ、以前の雰囲気をよく保っている。また、登山者に親しまれた望武小屋はすっかり荒れ果て、早かれ遅かれ使えなくなるだろう(現在はかろうじて雨露を凌げる)。このエリアで避難小屋が他に無いなか、その存在は貴重だ。長らく管理をされていた石川栄一氏(京都府山岳連盟)も亡くなられて久しい。なんとか生かす手だてはないのだろうか。
スキー場のゲレンデ跡はススキが生い茂り、秋風に穂を揺らしていた。ただ、流水が自然に流れるため溝が幾つもできている。土砂が流れ込むので、池はかなり汚れている。八雲ヶ原周辺は人工物がなくなり、湿原に木道が設置されていた。比良ロッヂやロープウェイの駅があった稜線は広々としたザレ地になり、琵琶湖の眺望もすっきりして美しい。神爾谷をツメてきて北比良峠直前にあるガレは、以前のトラバースルートがたどれない。上部を高巻くようになっていた。露頭が剥き出しだったガレも、今は大半を植物に覆われている(鎖のある部分はそのまま)。
ダケ道は想像以上に荒れており、下降に時間がかかる。ゴロゴロした石や落下した枝が沢山あり、多くの人が歩いた道とは思えなかった。大山口から下流の正面谷は、樹木のないガラガラの谷がすっかり様相を一変させている。植林がなされた結果だろうが、日射しをまともに受け汗をかきながら登った道がちょっと懐かしい。正面小屋跡もわからず、イン谷口(出合小屋、コウドウ)に下り着く。「東レ新道」の分岐を経て比良駅までの山麓の道も、住宅地を除いてすっかり荒れていた。
登山者の動向や環境の変化によって、かなりの変貌を実感した。しかし、静けさは好ましく、じっくりと触れられる山になったようだ。(2010.9) |