吉野・奥千本の西にある百貝岳は理源大師ゆかりの山である。宇多天皇の命を受けた大師が山中の大蛇を法螺貝でおびき寄せ、その音が百の貝を一度に鳴らしたほどだったという故事に因む。行政的には黒滝村に属し、公共交通機関の不便な地域としてこれまで取り上げなかった。 そこで、奥千本を出発地にしてバスが通る黒滝の道の駅へ下るコースを考える。地元でも人を呼ぶ取り組みをしており、吉野の山と点在する史跡をつなぐハイキングコースが整備されていた。 後醍醐天皇を祀る吉野神宮前から奥千本口までバスを利用し、金峯神社から西行庵を経て百貝岳に向かう。山頂では心地よい風が通り、祠の周りでゆっくり昼食の時間を取った。重要文化財に指定された理源大師廟塔に寄ってから鳳閣寺へ下る。退治した大蛇の頭蓋骨が残るという寺の境内からは、この日一番の景観が目の前に開けた。鳥住(とりすみ)集落の背後だけに標高も高く、蔵王堂(金峯山寺)の甍も姿を見せていた。この風景だけでも来る価値は十分で、しばし休憩して山座同定を楽しむ。 その後、清水が湧く地蔵峠の地蔵堂(地蔵菩薩立像は伝慶長年間作)にお参りし、粟飯谷(あわいだに)川・黒滝川に沿って道の駅まで歩く。途中の粟飯谷八幡神社前には、「大坂/すぐみち/高野山」という石造道標があり、往来が盛んだったことを伺わせていた(2018.6.30)。 |