ウサギの島で知られる大久野(おおくの)島に近い黒滝山・白滝(しらたき)山は、忠海(ただのうみ)を代表する信仰の山である。どちらも山頂付近に大岩が点在し、眺望のよい山としても有名だ。 駅から古い町並みを抜けて誓念寺の門前までくると、「黒瀧山観音近道」の標石が立っていた。寺院は江戸時代の朝鮮通信使が利用した宿所で、付近は落ち着いた雰囲気に包まれる。 登山口のさくら堂(一番堂)をめざして進むと、行く手に大きな岩と観音堂が見える。山中に入れば、よい雰囲気の林に乃木将軍腰掛岩があった。西国三十三所霊場の仏像が並ぶ道を折り返すと、「幸福の鳥居くぐり」の標石と小さな鳥居が並び建つ。山頂広場に登れば、天照大神などの石碑があった。 黒滝山の頂上には、出雲大神・大峯神社が祀られ、その北側が最高地点である。風が強いので、瀬戸内海の眺望もそこそこに白滝山へ向かう。 自然林の尾根がつづき、途中から山腹をトラバースして駐車場のある車道に出た。舗装路を登ると龍泉寺の門前に着く。本堂に参拝して山頂をめざせば、八畳岩に大きな磨崖仏が刻まれていた。南側が釈迦三尊像で、北側は十六善神像。江戸時代初期のものらしい。回り込んで岩の上に立ち、鐘楼と秋葉権現を往復する。360度の大パノラマで、とりわけ芸予諸島が多島美を見せて印象的だ。 境内に戻って、門前から南東の支尾根を降ると展望台があった。東屋のベンチに腰掛け、昼食をとりながら忠海の海浜風景を楽しむ。空気が澄んでいるので心が洗われる。 渡瀬〔わたせ=三原市幸崎(さいざき)〕方面へのコースを左に分け、支尾根の先端から右へトラバースすると、先ほど出合った駐車場からの車道に出た。西側へ登り返して、黒滝山と白滝山を結ぶ尾根の中間地点に戻る。 帰途は、観音巡礼道を使ってさくら堂(一番堂)の上部に降り立った。このミニ巡礼道は安置された石仏だけでなく、露岩に彫られた大きな観音像が特徴であろう。文政4(1821)年に完成した霊場巡りのようで、往時の人々の信仰の深さが偲ばれる。 下山後は、本通を通って忠海八幡神社に立ち寄り、天然記念物のモッコク・クスノキ・ウバメガシなどが覆う樹林で一息つく。境内には、明治維新の志士=池田快堂(徳太郎)の大きな石碑もあった(2025.12.5)。 |