住田(すみた)町・釜石市・大船渡市の境界に、広大な山稜を横たえる五葉(ごよう)山は信仰の山である。山中にいくつもの祠があり、周辺から道がつづいていた。山麓の里宮は、上有住(かみありす=住田町)・日頃市(ひころいち=大船渡市)・甲子(かっし=釜石市)など六社を数える。 山上からは三陸のリアス式海岸を眼下に、条件がよければ遠く金華山も望めるらしい。内陸側は奥羽山脈の山々が波打つ。横から見る早池峰(はやちね)山の山稜が近い。 盛岡から釜石を経て、赤坂峠に着いたのは午前10時を過ぎていた。すぐに鳥居をくぐって山頂をめざす。賽ノ河原から緩く曲線を描くと、ブナやミズナラの美しい林が広がる。畳石を経て姥石や山王の小祠に参拝しながら登ると、道普請に励む人と出会った。土嚢袋を埋めて洗い越しが整備され、こうした作業があって初めて道は維持される。感謝しつつ挨拶して通り過ぎた。 傾斜がなくなり「石楠花荘」に達すると、近い位置に青い海があった。水場から西側にトラバースして、石積みに囲まれた「日枝(ひえ)神社」〔日頃市の五葉山(日枝)神社奥宮〕の前に出る。黒岩への尾根が伸びやかに先へつづいていた。 まず、一等三角点(点名=五葉山)と最高地点の日ノ出岩に向かう。広く平坦な尾根は少し紅葉が始まっていた。露岩の上に立って早池峰山や岩手山を探す。気温と湿度が高いのか、遠方はあまり明確でない。 引き返して、田ノ神(稲荷神社)から五葉山神社奥宮(住田町上有住)まで進む。下山する黒岩コースがあまりよくないので、桧山(ひやま)コースの分岐で思案する。黒岩の尾根は、露岩が多く短時間でこなすのは困難なうえ、その先が斜面をトラバースしながら下るのでルートを見失う可能性も高い。中程で折り返して支谷へ入るのが一番のネックである。 いっぽう、桧山コースは「あすなろ山荘」まで尾根を下ればよいので大きな問題がない。残り時間が3時間余り。確実に麓へ下山するため、堅実なコースを選んだ。釜石駅での30分の待ち時間が、ここに来て大きく響く。 支尾根に入ると、こちらも初めの標高差150mがやはり不明瞭。大きな木々に覆われた中腹で、なんとかルートを追うことができるようになった。しかし、枝葉が成長して道を塞ぎ、倒木もあって簡単には降れない。近年はほとんど歩かれることがないのだろう。積雪期を除き、最近の記録をネットで探すことができなかったのも納得。 山荘からは、国有林内の荒れた林道で桧山の集落に向かう。「五葉山自然観察教育林」の掲示板によると、国連の国際森林年(2011年)に関連して設置された施設とコースらしく、保守管理をしない限り十数年でこんな状況になるのかと思い知らされる。 桧山(檜山)は、仙台(伊達)藩の火縄銃に使う檜皮を供給してきた歴史を秘め、「御用山」と呼ばれた。山名はこれが転訛したものらしい。集落の高台にある阿弥陀堂に登り稜線を見上げる。県道が通る中埣(なかぞね)のコース入口には、今も五葉山を示す標識が立っていた。付近の廃屋とともに、寂れた場景が目に焼き付く(2025.10.3)。 |