八幡平市安代(あしろ=旧二戸郡)と西根(旧岩手郡)にまたがる七時雨(ななしぐれ)山は、以前から気になる存在だった。地理的には奥羽山脈の一部で、火山性の独立した山なみである。おもしろい山名は変化に富む天気によるものだというが、正しくは中腹を通る「流(なか)れしぐれ道」(奥州道中の脇街道)に由来するものらしい。 盛岡から八幡平方面に向かうと、左手に岩手山が大きい。前日の降雨の影響がまだ残り、山頂は雲に覆われたままである。回復基調なので、徐々に晴れてくるだろう。荒屋新町駅から田代平(たしろたい)の登山口まで上がると、広大な牧野の背後にガスのかかる山稜が見渡せた。一帯は「南部馬」の産地である。反対側の田代山も姿を隠している。 牧歌的な風景の草原を離れると、広葉樹林になって山深い雰囲気が漂う。「合目」(階層)を示す標識が次々と現れ、出発から1時間余りで一等三角点の北峰(点名=七時雨山)に着いた。まだ見通しがよくないので、最高峰の南峰までそのまま進む。 南面から西面が開けた頂上では、岩手山が一気に近づいた。右手には台地状の八幡平がピークを連ねる。松尾鉱山跡近くから立ち昇る蒸気がよい目印になり、安比(あっぴ)高原も近い。 しばし眺望を楽しんだのち、西根側の急峻な尾根を降る。だんだん傾斜が緩くなり、賽ノ神を過ぎると車之走(くるまのはしり)峠の旧道に出た。盛岡と鹿角(かづの)・大館(おおだて)をつなぐ鹿角街道で、峠付近にマンダ(シナノキ)並木が残る。留之沢には一里塚が現存する。説明版によると、盛岡から十一里(盛岡藩:一里=42丁。一般には36丁)で、二つある塚の間が道幅(約5m)だったという。 北上川の源流にあたる染田(そめた)川に沿って、西根寺田の「七時雨憩いの湯」まで歩いて山行を終えた。バスで花輪線の大更(おおぶけ)駅へ向かうと、往来の目標にされた特徴ある山稜が少しづつ遠ざかっていく(2025.10.2)。 |