仁淀(によど)川下流域に位置する横倉(よこぐら)山(旧称:三嶽=みたき=山)は、低山ながら歴史や修験の山として知られてきた。山頂に安徳天皇御陵参考地があり、平知盛(たいらの とももり)により安徳天皇を祀った横倉宮〔御嶽(みたき)神社=古くは上ノ宮〕をはじめ各所に神々が祀られる。また、化石を含む石灰岩の岩場が発達し、花崗岩や蛇紋岩が貫入して地質も変化に富む。そのため、植生が豊かで牧野富太郎(まきの とみたろう=植物分類学者)ゆかりの植物も多い。ヨコグラノキはこの山で発見された。 一度は訪ねてみたいと思ってきたが、好天がつづくとの予報に思い立って急遽出かけた。中腹の八坂神社を出発して、杉原神社の表参道を登る。石段を直登すると夫婦杉が道を挟み、ほどなく杉原神社の境内に入った。社叢の大杉群が立派だ。平家之宮も参拝する。拝殿前の平坦地にはコオロギランを保護する鎖が張り巡らされていた。長い時間をかけて高さ数センチの花を探す。 田口社に寄ってから上部の横倉宮へ向かう。一帯はアカガシの樹林で巨樹も多い。拝殿の前から、「馬鹿だめし」の下部にある岩屋神社と平家穴を往復し、西側の安徳天皇御陵参考地につづく石段を登る。この辺りも緑濃い自然林が広がる。 畝傍(うねび)山眺望所に行くと、起伏ある横倉山が目の前に横たわっていた。なかなか険しい山稜で、越知(おち)の町が遠くに望まれる。標高はこの辺りが一番高い。鎖を頼りに岩稜の先にある住吉神社(龍バシリ)まで降り、帰途はドリーネの空池(からいけ)を周回して横倉宮に戻る。本殿南側の「馬鹿だめし」は馬鹿かどうかを試す露岩で、危険な突端まで進む者は馬鹿者とされる。 尾根を東に進み、774.6mの三角点と屏風岩を見上げて再び杉原神社の境内に降りた。この日の午後は、『越知町立 横倉山自然の森博物館』の観察会が開かれるようなので、静かなうちに参道を第3駐車場まで進む。 その後は、林道(横倉長者線)と旧道(徒歩道)を利用して、約7キロメートルを宮ノ前まで下山した。上部の旧道は十分利用できる状況だったものの、下部は倒木と薮に阻まれ林道へ引き返した。残念ながら、『花の百名山』(田中澄江)にあるオオバノトンボソウを目にすることは叶わなかった。 日帰りのわずかな周回山行だったが、「横倉山県立自然公園」を十分に楽しむことができた(2025.9.7)。 |