北アルプスの最奥部に位置する雲ノ平は、誰しも一度は訪れたいエリアであろう。『山旅倶楽部』に要望が寄せられており、3泊4日で実施した。せっかくなので、高天原(たかまがはら)の温泉にも立ち寄る。 参加者の体力などから判断して、以下のような計画にした。折立(おりたて)より入山して薬師沢小屋で1泊。次の日は、雲ノ平から高天原峠へ下って高天原山荘で宿泊する。3日目に岩苔乗越(いわごけのっこし)から黒部川源流を経て三俣山荘に登り返し、双六岳の巻道で双六小屋へ。4日目は鏡平から小池新道を新穂高温泉へ下山したのち高山市街に向かう予定。 折立から太郎兵衛平(たろうべえだいら)へは、最初は急坂がつづくものの、三等三角点(点名=青渕)を過ぎると徐々に周囲の景色が広がって気分も晴れる。広くなだらかな尾根は、踏み荒らしや水害で荒廃し各所で補修がなされていた。太郎平小屋の前で昼食を取り、午後は薬師沢に沿って降る。カベッケヶ原一帯は多くの花を見ることができた。 黒部川本流を吊橋で渡ると雲ノ平へ標高差450mの急登。アラスカ庭園・奥日本庭園・祖母(ばあ)岳・アルプス庭園で広い溶岩台地を感じる。東側には火山の祖父(じい)岳がある。雲ノ平山荘からひと登りして、電波塔が建つ2,576m標高点で周囲の景観を眺めた。傍に「立山地区 測水所及び観測施設」の銘板があった。 大きな岩塊が積み重なる奥スイス庭園を経て、連続するハシゴを通過すると高天原峠に出た。薬師沢小屋から黒部川右岸につづく大東新道が合流する。かつて利用したことがあり、けっこう時間を費やした記憶がある。この道は、モリブデンを採掘する大東興業が1960年代に開いたものだが、鉱山の稼働は長くつづかなかった。 高天原の湿地帯と温泉を通って夢ノ平まで行ったものの、かつての高天原新道(高天原〜東沢出合をつなぐ黒部川右岸の道)の痕跡は残っていなかった。温泉沢左岸に露天風呂があり、右岸(2ヶ所)には囲いのある湯槽が設けられている。以前は右岸を少し登った水流の側で入湯したように思う。 岩苔小谷に沿った道を水晶池に向かい、明るく開けた上流を岩苔乗越に登る。朝が早いので、すばらしい青空が展開していた。黒部川側へ降ると、行く手の大岩の向こうをクマが左から右へ横断したらしい。メンバーの後半と後ろの単独行の方が大声で叫んでいる。前の3人はまったく気づかずに進んでいた。動物の臭いは感じない。その後は、ハイマツに遮られたり先が見通せない屈曲点では大声を発して降る。 三俣山荘へ登り返し、小屋の前でしばし休憩した。ここまで来れば、先が読めるので気持ちも楽になる。ちょうど、環水平アークが見られた。三俣蓮華岳のピーク手前から巻道で双六小屋に向かうが、この付近でもクマが目撃されたらしい。そこそこの頻度で登山者が歩くため心配せずに進む。 最終日は、新穂高温泉へ午後早めに着きたい。鏡平の池で「逆さ槍」を目に焼き付け、流された橋の復旧作業をされる方々に感謝しながら秩父沢を渡る。すぐに、風穴があって涼しい空気が感じられた。歩きやすい石畳道を降って左俣林道に出る。わさび平小屋で涼み、ロープウェイ駅近くの温泉に入って山行を終了。全員満足の、好天がつづいた4日間だった(2025.8.21〜8.24)。 |