長野県富士見町と伊那市にまたがる入笠(にゅうかさ)山は、南アルプスの前衛にあって日本アルプスや八ヶ岳の眺望で知られる名山だ。「にゅう」は稲塚を表し、山容からついた名称だろう。山上の湿地や草原には植物も多く、季節を問わず愛好家が訪れる。 富士見パノラマリゾートのゴンドラで標高1,770mまで上がれるため、櫛形(くしがた)山へ行く前日に立ち寄ってみた。不安定な天気が予想されるので、山上を早めに周回してこよう。 山頂駅を出て入笠湿原に入ると、アヤメやノハナショウブがあちこちに咲いていた。まず、山頂めざして御所平から山道を登る。岩場がある尾根通しのルートを選ぶ。山頂には大山祇命と摩利支天の石が祀られていた。濃淡を繰り返すガスに覆われ、残念ながら近くの山稜しか望むことができない。このとき、遠くで雷鳴が聞こえた。日差しが強いので首切清水へ降りて休憩する。金奉行が賊に襲われたという伝説の残る場所だが、伊那(高遠・長谷)との峠道だけに旅人の話が転化した印象を拭えない。 昼食後は高層湿原の大阿原(おおあはら)湿原を一周する。土砂の堆積やササの進出で草原のような風景だった。帰途は山腹の車道で戻る。沿道のカラマツ林はサルオガセが目立って異様な光景がつづく。年間を通じて湿度が高いのだろう。 入笠湿原は、往路とは別の道で山頂駅へ向かう。今シーズン最後のホテイアツモリと、これから開花するであろうエンビセンノウの花に初めて出会った(2025.7.3)。 |