岡山県南東部にある熊山は霊山として知られ、周辺の人々から親しまれている。これまでに、兵庫県の赤穂・竜野などの山へ出かけて気になっていた。山稜の南北を鉄道(山陽本線・赤穂線)が走っているためアプローチに恵まれる。今回は、備前焼のふるさと=伊部(いんべ)から入山して大滝山に達し、熊山から油瀧(あぶらたき)神社を経て香登(かがと)へ下山するコースを計画した。 伊部は焼物の町らしく、あちこちに煙突が立って神社の狛犬も陶製だ。「西宮(にしのみや)」と呼ばれる履掛(くつかけ)天神宮から、不老川に沿って上流をめざす。対岸の医王山が存在感を示す。屏風岩が近づいてくると、鳥居が並ぶ高倉大明神の参道が左に分かれた。社殿まで往復する。林道鬼ヶ城線をさらに進み、大滝山の登山口から屏風岩北側の鞍部へ登る。342m標高点まではなかなかの傾斜だったが、展望台が近づくと緩やかになった。岩場からは登ってきた方向が見下ろせるものの、遠くは霞んで海辺はわずかしか見えない。 稜線で左折すると大滝山の四等三角点が車道の傍にあった。次の尺八山にも登ってから再び車道へ出ると、NTT中継所が建つ熊山のピークへ向かう道路が右に分かれる。頂上には二等三角点が設置されていた。途中にショートカットの道もある。 分岐に戻って進むと「熊山」駅からのコースが合流する。最高地点に熊山神社が鎮座し、人影のない参道は厳かな雰囲気が漂っていた。スギの巨樹が二本並び、駒札に高さ38m、幹回り4.5mとある(赤磐市天然記念物)。その先の平坦地が霊山(りょうせん)寺跡で、奈良時代の仏塔とされる熊山遺跡が目に入る。方形の基壇の上に三段の割石で築いた形状は、奈良市の頭塔(ずとう)に通じるものがある。 南側の平坦地に展望台があるので休憩した。残念ながら、気温が高く霞んでいるため吉井川の流れがわずかに認められるだけである。猿田彦神社の周囲は大きな木が多く、「熊山奥吉原自然環境保護地域」の中心エリアにあたる(面積=6ha)。高津山への尾根に入り、マツ林の中を油瀧神社へ向かう。 まず、熊山油瀧神社上之宮が現れ、422m標高点の南側に熊山姫大神下之宮が祀られていた。高津山には一ノ鳥居が立ち、まもなく尾根から西側の斜面を降る。道はよく踏まれているものの、毘沙門堂へ行けるのか心配になる。徐々に左へトラバースを始め、石段が出てくると御堂の前に着いた。参道下部は尾根道ではなかった。ここからは、よい道が香登の登山口につづく。 集落へ出たところに油瀧神社の社務所があって、入口に観音石仏の小祠も建つ。西国街道を西に進めば、街道風景のなかに教会や装飾を施した洋館が見られた。歴史の1ページに浸るようなひとときを過ごす。帰途の相生でも、西国街道と赤穂城下への古い道標があって、かつての交通に思いを馳せることができた(2025.2.27)。 |