祖母・傾山系の宮崎県側にある大崩(おおくえ)山は、山腹に岩場を擁する特徴的な山容を誇る。なかでも、大規模なスラブと「ダキ」(「タキ」)と呼ぶ岩峰(岩崖)が見る者を圧倒する。冬型の気圧配置になって、日本海側は降雪も予想されたので、懸案だった九州の山に出かけた。 延岡を早朝に立って、祝子(ほうり)川の上流をめざす。大崩山登山口から大崩山荘(大崩山山小屋)の前を通って湧塚(わくづか)コースを登り、登頂後は坊主尾根を大崩山荘へ降る日帰りの行程。 登山口から祝子川左岸の急斜面を横切って行くため、何度も上部へ迂回させられた。多雨地域だけに、土砂崩れも多いのだろう。幸い湧塚の徒渉点は飛び石で渡ることができた。小積(こづみ)谷の流れを渡り返しながら遡るが、大岩や崖でルートは不明瞭。ピンクのテープを目安に進むものの、暗いためルートファインディングが難しい。 尾根に出たら歩くやすくなった。袖ダキ(ソデノタキ)は展望に優れるところだが、この頃からガスに覆われて対岸の坊主尾根も下部しか見えない。露岩と岩稜がつづくので、北面のトラバースでなくつい上部の岩場へ誘われる。下湧塚から中湧塚にかけても地形図の道を大きく外した。尾根上なので、現在地はGPSで正しく把握できる。岩場を慎重に降ってコースへ戻った。以前はこの一帯を本ダキと呼んでいたと記憶する。湧塚岩峰群の最高峰は駒次郎ダキと称した。 上湧塚のトラバースを終えると穏やかな地形に変わり、葉を落とした広葉樹林に気持ちが和む。標高1,500m辺りから霧氷が現れ、ミゾレが舞う視界に木々の枝がいっそう白い。思いがけない光景に遭遇して嬉しい。今シーズン初めての冬の装いだ。 鹿納(かのう)山からのコースが西側から合流し、石塚を越えて山頂に達する。南側は徐々にガスが薄くなって、ときおり青空も覗くようになった。延岡市街や日向灘が日光に輝く。 坊主尾根への分岐から小積ダキの標高点(1,391m)に寄り道し、折り返して象岩から尾根の核心部に入った。花崗斑岩のスラブが連続して、ワイヤー・ロープ・アンチ(踏板)・梯子がなければ通過するのは難しい。こんなルートを、よくつくったものだと感心する。人工的な補助手段がなければ、バリエーションルートである。途中には、岩の隙間を潜り抜けるところもあった。 標高1,050m付近から谷の斜面に入ると、幾分傾斜が落ち着いてくる。ゴーロとなった下小積谷は左岸に道がつづく。祝子川を飛び石で渡り、日当たりのよい河原で濡れた雨具とカバーを広げた。見上げると、小積ダキをはじめ坊主尾根の岩頭が重なり合っている。ただ、ガスが完全に上がることはなかった。この日のコースは森林生態系保護のコア地域になっていて、造形の妙と見事な自然環境を存分に体感する一日になった(2024.11.23)。 |